Doriブログ

楽しいディベートの世界の感想をなんとなく書き綴る

適正引用AIの要件定義(1)

前回不正引用の話をしたときに、AIで見破れたりしたらいいのにね、という話がありました。確かにもし実現できれば大変有益なので、真面目に検討していきたいと思います。

その前に、不正引用という言葉についてなのですが、印象があまりよくないので適正引用や適正引用化などのポジティブな言葉を使っていきたいです。

 

要件定義とは

要件定義というのは何かというと、システムを作るときに、どのような機能を実装するか、どのような性能を満たすべきかを決めることです。

AIも何がしたいか明確でないと作れません。そもそもAIで作るべきなのか、他の方法で解決すべきなのかも分かりません。

「すべての引用を適正にしてくれ」と頼んでも、適正ってなんだ、すべての引用ってどうやって確認するんだ、って話です。

ディベート風に言えば、今は「すべての引用を適正にしたい」という論題だけあって、付帯分や追加プラン、定義、現状の問題の整理、解決性、インパクトなどなど何もない状態という感じです。

つまり要件定義とは、肯定側立論ですね!

 

さっそく要件定義

とてもよくまとまっている資料がありました。

2017年の通達です。

http://nade.jp/files/uploads/evidence2017.pdf

ここでは注意すべき例が載っています。ということは、この注意すべき例を避けることができれば、より適正に近づくのではないでしょうか。

1.誰がその主張を行ったのかを取り違えかねない例

2.指示語を示す内容を取り違えかねない例

3.省略によって程度の評価が変わり得る例

4.出典が確認できない例

 

いい感じで問題点が見えてきましたね。しかしこれではまだ粗い。

何を気を付けたらいいのか一つづつ見ていきましょう。

1.誰がその主張を行ったのかを取り違えかねない例

これの原因を考えていきます。

事例1-A 著者が違う→出典の読み上げ・記載ルール違反

事例1-B 文末まで引用していない

事例1-C 孫引き元の人を読み上げなかった→著者が違う

 

そもそも著者が違うと何がいけないのかという話なんですが、本人が言っていないことを言ったことにしてしまうわけですから、これはほぼ捏造に近いわけです。

また、この人はこういう経歴でこういう研究を経てこの結論に至った、など資料同士を比較するときに誰が何年に言ったということは非常に重要になります。

 

2.指示語を示す内容を取り違えかねない例

事例2 中略した部分の中に指示語の中身があった

 

これは、資料を手に入れた段階で中略済みだと絶対に気づけません。

このための対策として、中略は資料集を作る段階では絶対にしないことをお勧めします。今すでに中略されているなら、試合で使う分だけでも本・雑誌など読み直して入力しなおしましょう。

 

3.省略によって程度の評価が変わり得る例

事例3 文中中略

 

文中中略はそれだけで信ぴょう性が低く感じます。そこを読んだらまずい事情でもあるんですか?と思います。その数秒をかけられない程度の資料なら最初から読まなくていいです。

 

4.出典が確認できない例

事例4 リンク切れ

 

物議を醸したことはとても記憶にあります。魚拓とかWaybackとかは過去の遺物かもしれませんね。とはいえ、資料集にアクセス日を記載していない学校は多いと思います。書いておけば済む話なので、立論に使う資料、反駁の重要な資料くらいは書いておいたほうがいいです。

 

まとめると

事例1-A 著者が違う→出典の読み上げ・記載ルール違反

事例1-B 文末まで引用していない

事例1-C 孫引き元の人を読み上げなかった→著者が違う

事例2 中略した部分の中に指示語の中身があった

事例3 文中中略

事例4 リンク切れ

 

え、こんなんどうやってシステムでチェックするの・・・

リンク切れくらいなら機械的にできそうかな。

事例1、2なんて読み上げられた部分だけでは絶対に気づけない。

文中中略は怪しいからわかるかも。でも後略とかはわからないだろうな。

 

まだまだ先は長くなりそうです。何かいい方法を思いついたら教えてください。

不正引用と対策

悲しいことに、不正引用が今シーズン発生しているようです。

 

対策

試合終了直後に申し出ができます。ルール改正前は「アピール」と呼ばれていました。

1、ジャッジに声をかける

試合終了後のジャッジは流れで即移動します。タイマーが鳴ったら司会の声を遮って「アピールがあります」でも「反則の申し出があります」でもいいのでとにかく発声しましょう。「すみません!」とか「あのおおお!!!」とかでもいいです。たぶん。

細則A
第1条 次の行為があったときは反則として,悪質な場合,審判団の判断でその試合を敗戦にすることがあります。
4号 審判や相手チームから証拠資料の提出が求められた際,これに応じないとき。
5号 証拠資料を捏造(ねつぞう)して使用したとき。
6号 証拠資料として元の文章を改変したものを引用したり,元の文意を変えるような不適切な省略をしたとき。
第2条 前条各号の反則行為があったと考えられる場合,出場選手は試合中あるいは肯定側第2 反駁直後に審判に申し出ることができます。その際は,相手チームのどの行為が、どの反則行為に該当するのかを明示しなければなりません。

 

2、どんな反則があったのか話す

不正引用の場合該当するのは主に細則Bの第6条です。

細則B

第6条 証拠資料を引用する際には,原典の文面をそのまま引用しなければなりません。中略する場合は,元の文意を損なわない範囲で行わなければなりません。また,中略を行ったことを引用中に明示しなければなりません。

 相手の資料を自分たちも持っている場合は、具体的にどの部分をが文意を損なっているか説明します。

持っていない場合でも、試合中に資料請求をするなどして不正であることが明確な場合には、「文中中略を行なっている部分で文意を損なっているので、相手の資料を確認して無効か反則にしてほしい」とは言えるでしょう。

審判には選手に資料請求でき、選手はこれを提出しなくてはならないと定められているので、相手の資料を持っていなくても、基本的にアピールがあった以上相手選手に資料提出を求めるます。

細則B

第9条 審判あるいは相手チームから,それまでに引用した証拠資料の提出を求められた場合,各チームは証拠資料を提出しなくてはなりません。

効果

基本的にはその試合でその資料が読まれなかったこと(無効)になります。

細則B

第7条 前項までに定める要件が満たされない場合には,引用された証拠資料の信憑性は低く評価され,あるいは証拠資料として引用されなかったものと判断されます。 

本当に反則であれば、細則Cの第3条によって試合の失格や大会の敗戦になりますが、はっきり言ってこれは望み薄です。また、個々のジャッジの判断ではなく、主催者の判断というところから、資料の無効化とは全く性質の違うものです。

細則C

第3条 第1条各号の行為のほか,大会要綱に従い,主催者の判断でその試合の敗戦または大会の失格にすることがあります。 

公式ルールと過去の通達

ルール

http://nade.jp/koshien/rule/index

通達

http://nade.jp/koshien/rule/notice

Twitter上で見かけた疑問等

アピールはジャッジに嫌がられるんじゃないか

正直言うと嫌です。でも、不正引用はもっと嫌です。たった10分くらいしかない検討時間で資料の真偽を確認する手間が増える訳ですからね。講評でもそれについて触れずには終われません。しかし、不正引用を見過ごして判断する方が圧倒的に嫌です。

もし嫌そうにされているとすれば、別にアピールをされなくてもその論点はそもそも伸びていないとか、投票理由にならないとか、そもそも真偽を判断できるほど根拠になっていない資料のときです。

(アピールの乱用は大会を混乱させるのでやめましょう。あくまで不正引用を排する目的で使ってください)

不正引用は多すぎて何がなんやら

そうですね。そのためにそもそも前略、文中中略、後略はすべきでないと思います。

でも不正引用に対する怒りを忘れないようにしないと、自分も不正引用していいような気分になってくるからやっぱりダメです。

不正引用しても勝てるチャンスあるならやっちゃうかも

不正引用をしたらからといって敗戦にまではならないと高を括っているのかもしれませんが、負けにはならなくても、ほぼ名指し状態で公式から通達を出されたことがあります。(2014年11月19日通達http://nade.jp/files/uploads/evidence2014.pdf

いい思い出にできないし、させないです。不正引用は重大なルール違反です。そんな不名誉で後味の悪い勝ちはやめましょう。

 

補足

語気が強すぎたので補足すると、「わざとじゃなくても結果としてそうなってしまった場合どうしよう」というのは、分かった時点で直してください。そういう不正引用に対する恐れを常に持っているだけで全然違います。この記事はその注意喚起と、悪意のある不正引用に対する対策です。

一応そういう話を書いたことがあるので、どうすればいいか分からない人は読んでみてください。

 

doridori.hatenadiary.jp

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コミュニケーション点の上げ方

コミュニケーション点の上げ方について、質問箱で質問が全パートあったので、せっかくなのでこちらにもまとめます。

立論

コミュ点が必要な試合では、端的に言うと普段より資料を一枚抜いたくらいが上がると思います。

そんなことを聞いてるんじゃないと言われそうなので真面目に答えると

  • 句読点の位置を理解する。特に句点の後は間をとる。
  • 資料の出典を読み飛ばさない。
  • 音が潰れた感があるとイメージダウンなので音を潰さない。
  • 強調する部分に下線を引く。その通りに強調して読む。フローへの落ち方が断然変わる。その下線が長すぎたり短すぎたりすると、「なーんか抑揚ついてた割には全然フローに落ちないなあ」となってコミュ点下がる。
  • ジャッジをチラチラ見る。たまに目を合わせる。
  • しかし原稿を全く見ないプレイはイメージが良くない。

立論者は応答でも点稼ぎできるのでそっちも強化すると良いと思います。

質疑

コミュ点に限った話でもないですが、質疑への応答は立論の補足であることを念頭に、相手に気持ちよく「補足させてあげる」のが良い質疑だと思います。

1.立論の内容について共通見解を相手、ジャッジと形成する
  • ジャッジを見る
  • 返答に困るような聞き方をしない、断定して同意を迫ったり、怖がらせたりしない
2. 質問が簡潔で分かりやすい
  • サインポスティングが簡潔
  • 話が行ったり来たりしない、場当たり的に質問しない
  • なぜ、などオープンすぎる質問は、この場合こうなると思うんですけど、など条件をつけて答えやすくする
3. もう一段階突っ込む
  • 「立論では述べていません」など逃げられても、
    「では今具体例を教えてください」
    「具体例は特に思いつかないということでよろしいですか」
    「じゃあその1例ということですね。他にはありますか」
    など反駁に使いやすい形に整えておく
  • QなぜですかA〜〜で終わらずに、それはプランを導入すると解決するんですか、A〜〜、では解決性に質問しますが〜など単発の質問だけでなく流れをどんどん作って会話をしているような質疑にする
4. 相手を馬鹿にする態度を絶対に取らない
  • JDAなどでは割と高圧的な質疑が多いですが、NADEのコミュニケーション点はバロットとは違い、誤解を恐れずに言えば喧嘩腰になったりせずにちゃんと相手と話せるかどうかを評価している部分があります。それは導入経緯もあるので別物と思ってください。相手に失礼のないように、ジャッジに失礼のないように、これはとても大事なことです。

質疑は相手が乗ってこないと点数は伸びないので、ある程度諦めも必要ですが、乗れば一番点数が高くなりやすいとも思います。

応答

質疑のコミュ点の取り方と同じであったり裏返しであったりしますが、やはり基本的には応答は立論の補足であるという意識を持って、立論を解説してくれると伸びます。

  • ジャッジを見る
  • 相手が質問に困っていたら基本的には待つしかないが、一つの質問から出来るだけ意図を汲み取って答える
  • 相手のサインポスティングが不明瞭な場合さりげなく補足して噛み合わせる
  • 質問返しは基本的にしない(質問の意図が分からない時は聞く)
  • 「立論では述べていません」は「立論のどこで述べていますか?」を本当に位置として(←次にそこについて話をしたいのでサインポスティングのためにそうやって聞かれる時はあります)聞かれた時以外はジャッジから見ると最悪。立論内にあればサインポスティングしつつ答え、なければその場で補足して答える。
  • 分からないことには分からないと答える。要するに、ダウトを打たれてもその論点がなくならないのであれば、分からなくても大丈夫。

第一反駁

一反は準備がものをいうパートですが、それが相手の議論の噛み合っていることが非常に重要です。議論のボリュームがあるのは仕方ないですが、噛み合っていない議論を高速で長々とされるとだんだん腹立たしくさえ思てきて、そうなるとコミュ点は下がります。

  • サインポスティングを明確にする。立論全体について、などは何も言っていないのと同じ。
  • 引用、主張、根拠、結論のうち、引用主張部分を噛み合わせられるように反駁の準備をしておく。また、結論を必ず入れる。
  • 資料になると急に高速化する人が結構いるが、その資料はどうしても聞いてほしい根拠があるから読んでるんじゃないのか!!と思う。エビデンスエコノミーを真剣に考えて、文字数を抑える努力は惜しまない。
  • 最近では教える人は少ないらしいけど、キックアンドゴーはすごく良い。ダウトを打ってそこにあたりをつけてから反駁を当てる方法。相手はどの部分が証明できてなくて、自分たちはそこ証明しますよ、という感じ。NAFAのテキスト(スヌーピーのやつhttps://sites.google.com/a/nafadebate.org/nafalibrary/shiryokyozai/resumelist/advance-or-basic/debate)が分かりやすいです。明示的には教えなくても、上手い人の原稿を見ると、ダウトからちゃんとナンバリング付きで原稿化されてますね。
  • やはりここでもジャッジを見ること。必要があれば説明を補足する。

第二反駁

二反は論点を整理して比較するパートというのはご存知の通りですが、コミュ点に関して言えば「この二反の言う通り判定理由で喋っちゃお!最高!」と思たら高い点が付きます。それは実際の勝ち負けでなくとも、そのパートを聞いた時点では少なくともそう思たらコミュ点的にはOKです。

  • 論点が整理されている
  • 網羅性よりも、取捨選択されていて大事な論点の決着がついていること
  • 比較比較と言われるけど「比較します」と言えば比較したことになるわけじゃない。相手0自分100はい勝ち!は全然比較になっていない。相手30〜32自分35〜50くらいの論点整理をしておいて、32<35くらいで比べてほしい。
  • 一反よりゆっくり喋る

 

以上です。質問してくださった方ありがとうございました!

ディベート技術部Meetup 報告

本日、ディベート技術部のMeetupを開催しました。

debate.connpass.com

 

メンバーとしては、最終的にはディベートの運用に関わっている・いた人となりました。

普段は大会の運用に追われたり、ディベートの議論の中身で盛り上がることが多いためなかなか聞く機会がなかった、IT活用・システム構築系の話を共有することができました。

内容は多岐に渡りますが、問題意識を共有できればと思います。

 

 

中高生が抱える情報格差

中学校のパソコン室の機能制限

高校はわかりませんが、多くの中学校はパソコン室のPCで見られる情報に限りがあります。アクセスできないサイトなどがあります。これはセンシティブな内容から中学生を守るためのものではありますが、これによって多くの技術が利用できなかったり、多くの情報にアクセスできなかったりします。

例えば、「Googleは検索画面のみで、GoogleDriveやgmailなどの他全ては使えない」などの制約があるそうです。

家にPCがあるか、スマホがあるか

学校で情報へのアクセスができないとなると家のPCを使えば良いという話になるかもしれませんが、家庭によっては中学生にはまだ早いというところもあるでしょう。

学校でできない以上はここで大きく差がつきます。

近年ではスマホによる音声入力や、写真をとるだけでOCRで読み取って簡単に資料の入力をするという話も聞きます。これができるかできないかの差は大きいでしょう。限られた時間のなかで、文字をひたすら入力するというのは、なかなか時間がかかり忍耐のいる作業です。

メールアドレスを作る、ということを自力でできるか

ファイル共有であったり、メッセージ送信であったり、何かしらサービスを使うためにはメールアドレスを作る必要があります。しかし上記のようにアクセス制限をしている中学校のシステムでは、メールアドレスの作り方を教わる機会はないでしょう。

メールアドレスを自力で作る、この一線を超えられなければ、こんな機能のサービスがあるよ、などといくら紹介しても何も意味はないことです。

最近であれば、Gmailのアドレスを一つ持っておくと良いでしょう。(gmail以外はいけない訳ではないですが、Googleのアカウントで簡単に認証ができるものも増えているからです)

情報共有のモチベーションがあるか

ディベートはチーム戦であり、作った立論や反駁をどのように共有するかは非常に重要な問題であるにも関わらず、そもそも共有したほうがいいと思っていないひともいます。

毎日学校で会うから、手渡しするから、そういったレベルで共有している人はいまだに多いのが現状のようです。

 

差分・履歴管理ができているか

ワードなどで文書を作っていくと、新、最新、最終版、最終版改、などどれが最新なのかわからなくなりがちです。また、どこを変更したのかも分からなくなることもあります。バージョンアップなら同じファイルを更新していって、履歴で差分管理することが可能な仕組みを使っていくのがよいのかもしれません。

 

大会運営と技術担当者

限られた技術担当者

きっと中高生が会う機会はほとんどないと思いますが、本部の一番前でずっと座っている人たちがいます。この人たちがいないと、一気に大会は回らなくなります。参加校が多くなればなるほど大変な作業です。

最近は「情報配信が遅い」「サイトが更新されていなくて怠慢」のようなツイートを見ると心が痛みます。速報サイトなどが当たり前になっているようですが、当たり前ではないです。リソースがないとできないのが本音です。忙しい中、しかも完全にボランティアなのに、こんな文句ばかり言われてしまうと担当者はどんどん嫌になってしまうので、あまり空気が悪くならないようにみんなで気をつけていきましょう。

誰にでも使えるシステムにしたのに

ボタンをどんどん押すだけ、直感的な画面設計。にも関わらず、とりあえず技術担当者しかできないと思い込まれるパターンもあります。

確かにエラーが出るとかであれば、直せる人がいないと困るかもしれませんが、普通に使える状態なら、大会当日以外で練習するなどして、もう少しシステムを触れる人が増えると良いです。

システム開発の相場感

よく、イラストレーターに絵を頼むなら相場は◯◯円というようなものがあるように、システム開発にも相場があります。もし外部の人を雇うとしたら、1日(8時間)3〜5万円くらいはすると思ってください。

じゃあお金を払ったらいいかというと、ディベートのスタッフはボランティアなので決してそういう訳ではないのですが、要するに、結構大変なんだよってことです。

 

 おわりに

情報共有のためにSlackのWorkspaceを作りました。

18歳以上で、高校卒業済み(高専4年生以上)の方でご希望の方はTwitterFacebook、connpass等でご連絡ください。

 

 

 

AIディベートから学ぶディベートの意義とプレパ方法

少し前に、残念すぎるタイトルでディベート界を震撼させたこんな記事がありました。

www.gizmodo.jp

 

しかし、ぶっちゃけそんなテキトーにやってディベートで勝てる高度なAIができるわけはありません。そこで、開発者のIBMの記事からちゃんと見ていこうと思います。

IBMはすごーく大手のIT企業です。

www.ibm.com

 

 

AIとは何か

AI(Artificial Intelligence: 人工知能)は、なんでも自分で考えてできるSFじみたものではありません。

ごく簡単に言えば、現在AIと呼ばれているものが行なっているのは、学習とテストを繰り返すことでより良い結果を出そうとする作業です。

例えば漢字ドリルを思い出してください。

学習というのは、漢字とひらがなの組み合わせをたくさん覚えていきます。

テストというのは、漢字の小テストのようなものです。習っていない漢字も出します。編と偏が「へん」と読むことから篇も「へん」と読むのではないかと推測して答えます。

そのようにして学習したことを踏まえて、学習していないことも少し推測できるようにAIを育てていきます。

ここでは、AIも地道にお勉強しているんだなあと思ってもらえれば良いです。

 

IBM AIディベーター(Project Debater)

ここからは、IBMが何をAIに教えてきたかを一つずつ見ていきます。

(なお、このAIは即興型の試合用に作られたものですが、ある程度ディベート甲子園に引きつけて考えられるように説明していきます。)

 

1、たくさん知識を収集する

 

上記のIBMの記事の中では次のようにありました。

  • Project Debaterの知識ベースは、新聞と雑誌から収集された約100億の文から構成されています。

たくさん学習しています。すごいですね。100億ってどれくらいなのかもうよくわかりませんが、私が昔ディベーターは1シーズン2000枚論文を読めと聞いたことがあるようなないような気がするので、人間をはるかに超えた学習量です。

 

2、そのテキストの意図は何か

集めたテキストはそのままでは使えません。

肯定側で使えばいいのか、否定側で使えばいいのか。どこで使えばいいのか。

  • ライブ・ディベートでは、Project Debaterは、論題を説明する非常に短い文を与えられ、前もって学習したことのないトピックについて議論します。最初のステップでは、論題に賛成または反対する立論を作成します。Project Debaterは、この目的のために役立つ可能性があるテキストの断片を大規模なコーパスから検索します。これには人間の言語とその繊細なニュアンスを深く理解し、賛成と反対の立場を非常に正確に特定することが必要です。これは、人間にとってすらも必ずしも簡単ではなく、コンピューターにとっては非常に困難な処理です。

証拠資料を見つけてタイトルを付けていない場合、この困難さを放棄している可能性があります。一つの意味に決まらないから書けないということもあるかもしれませんが、 漫然と集めると結局取捨選択できなくてあとで困ってしまうことにもなりかねません。これはとても大変で、重要な作業です。

 

3、断片的な意見から立論を構成する

ここでは具体的に膨大な資料から立論に絞り込んでいくプロセスが端的に書かれています。

  • このプロセスによって、数百の関連するテキスト断片を生成することができます。効果的にディベートを進めるために、このシステムは、その意見をサポートする最も強力で多様な論拠を構築する必要があります。Project Debaterは、重複する論拠のテキストを排除し、残りから特に強力な主張と論拠を選択し、テーマごとにこれらを配置し、論題に賛成または反対するための論述のベースを作成することによって、これを実現します。
  1. 重複の削除
  2. 強い論拠の選択
  3. 配置
  4. 論述のベースを作る

ディベートでは普通、ここの言葉で言えば論述のベースから遡って資料を見つけるように教わります。それは、結局資料を集めても「3.配置」や「4.論述」で詰まってしまうからかもしれません。重複するほど資料を集めるのが大変というのもあるかもしれません。

やりたい議論を求めて存在しない資料を探して迷宮入りしてしまうチームがあります。まず今ある資料の中で強い論拠を選択して作ってみてください。

他校と似た議論なのに勝てないチームもあります。配置、論述を見直してみてください。

 

4、人間にとっての難問をサポートする論拠

Impact(重要性、深刻性)あるいはスタンスや判断基準と呼ばれる議論です。

  • また、ディベートの論題が呼び起こす人間にとっての難問(政府が個人の選択の自由を侵害しても国民に行為を強制することが正しいのはどのような場合か、など)をサポートする論拠を見いだすことができるように、ナレッジグラフも使用します。

 上記の括弧の中身はかなりいい例です。立論を立てた時、重要です、深刻です、だけでなく、相手の立論が発生していてもそれよりも自分たちの立論が重要な理由を考えることが必要です。

ナレッジグラフというのはGoogleの知識ベースのことらしいです。要するに適宜ググるって感じですかね。(中身はよく知りません)

 

5、論拠を組み合わせる

これはディベート甲子園で言えば、否定側がよく使う戦法で、いくつか発生過程を用意しておき、相手に合わせて組み合わせたりします。プランによってデメリットが大きく違う場合などですね。

  • Project Debaterは、選択したすべての論拠の断片を組み合わせて約4分間続く説得力のあるスピーチを作成します。このプロセスは数分で完了し、立論を発表する準備が整います。 

さらっと「説得力のあるスピーチ」と言っていますがそれはどうやって学習したんでしょう。すごいですね。

 

6、相手の反応を聞いて反駁する

反駁もします。ここも端的でわかりやすいです。

  • 次のステップでは、相手の反応に耳を傾け、理解し、反駁を構築します。適切な反駁をすることは、人間とマシンの両方にとってディベートの最も困難な部分です。Project Debaterは、相手の論拠を予測・特定する技法を含む多くの技法を適用します。次に、この論拠に対抗する主張と証拠で反駁することを目指します
  1. 相手の主張を聞く
  2. 相手の主張を理解する
  3. その論拠に対抗する主張と論拠で反駁する

反駁の4拍子などは上記3つを経て反駁する内容が決まった後のことです。

それはむしろ形式的な技法であり、本当に難しいのは相手の話を聞き、理解することであるといえます。

そして、とりあえず資料打っとけというのではなく、この論拠に対抗する主張と論拠でなければなりません。

 

おわりに

以上見てきたように、AIディベーターは、AIであるかどうかという以前に非常に質の高いディベーターに教育されているように思います。

AIディベーターについては記事や論文も出ているので興味のある人は調べてみてください。

AIと人間は比べられがちですが、そもそも人間はある点においては機械に負けるということはすでにAI以外でも起きている話です。電卓より早く正確に暗算できませんし、車より速く走れません。重要なのはAIに勝つか負けるかではなく、その背景にあるものとどのように関わりを持って生きていくかだと思います。

 

最初の記事の元になった記事を紹介します。

www.mugendai-web.jp

Project Debaterの目的の一つは、人の意思決定を支援することだといいます。

最初の記事の著者が勘違いしているのは、「AIが」人の意思決定を支援すると思っている点ですが、これはDebaterにかかっている言葉だと思います。

ディベートの技術がAIによって再現可能になり、だれでも利用できるようになれば役に立つということです。

 

 論題を通じてディベートや社会問題に向き合ってみてください。

シナリオ公開【フェイクニュース論題】

フェイクニュースのシナリオを作りました。
3つだけ守って、ご自由にお使いください。
1、自作発言しない
2、資料を使いたいときは引用元を自分で確認する
3、このまま大会で使わない

判定と判定理由をコメントでいただけると嬉しいです。
問題を色々盛り込みましたので、判定の練習にも使ってもらいたいです。

不適切引用はすぐそこにある(フェイクニュース論題)

著者の意図を捻じ曲げる引用は、すごく簡単にできてしまう。

それを自覚して、ちゃんとチェックしようという話です。

フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』作家(サイバーセキュリティニュースサイト設立者)一田 和樹(いちだ かずき)2018.11.10 p4

フェイクニュースと聞いて、ほとんどの人はネット上のねつ造されたニュースや情報を思い浮かべるだろう。そして、そういうものがSNSを通して拡散し、社会に悪影響を及ぼしているのだろうと想像するだろう。その対策は個々人の情報リテラシーをあげるとともに、しかるべき期間がファクトチェック(事実確認)を行って真偽判定をすること。フェイスブックツイッターなどのSNS提供者側もファクトチェックに対応した規制を行うことが望ましい。そんな感じだろう。ある面では正しい。ある面と制限したのは愉快犯やアクセス稼ぎ(あるいはアフィリエイト収入)目的だけを対象にするのなら、効果がありそうという意味だ。しかし、現実のフェイクニュースにはもっと広い範囲でさまざまな人々が関わっており、組織的に世論操作を仕掛けられていることも少なくない。」

こんな感じの資料があります。

著者の意図はどれですか?

1、事実確認の規制は望ましい。

2、事実確認の規制は絶対に行うべきではない。

3、事実確認の規制も効果の出ない部分があるので望ましいとは言えない。

 

はい、正解は3ですね。

 

しかしこれ

フェイクニュースと聞いて、ほとんどの人はネット上のねつ造されたニュースや情報を思い浮かべるだろう。そして、そういうものがSNSを通して拡散し、社会に悪影響を及ぼしているのだろうと想像するだろう。その対策は個々人の情報リテラシーをあげるとともに、しかるべき期間がファクトチェック(事実確認)を行って真偽判定をすること。フェイスブックツイッターなどのSNS提供者側もファクトチェックに対応した規制を行うことが望ましい。

ここだけ引用されたらどうですか?1ですね。

これはもう著者の意図を捻じ曲げちゃってます。

要するに、中略をしていいかどうか、というような形式的な話ではありません。

文意を損なうこと、これがダメなんです。

 

こういう引用をしたら、吊し上げられると思うので、気をつけてください。