Doriブログ

楽しいディベートの世界の感想をなんとなく書き綴る

AIディベートから学ぶディベートの意義とプレパ方法

少し前に、残念すぎるタイトルでディベート界を震撼させたこんな記事がありました。

www.gizmodo.jp

 

しかし、ぶっちゃけそんなテキトーにやってディベートで勝てる高度なAIができるわけはありません。そこで、開発者のIBMの記事からちゃんと見ていこうと思います。

IBMはすごーく大手のIT企業です。

www.ibm.com

 

 

AIとは何か

AI(Artificial Intelligence: 人工知能)は、なんでも自分で考えてできるSFじみたものではありません。

ごく簡単に言えば、現在AIと呼ばれているものが行なっているのは、学習とテストを繰り返すことでより良い結果を出そうとする作業です。

例えば漢字ドリルを思い出してください。

学習というのは、漢字とひらがなの組み合わせをたくさん覚えていきます。

テストというのは、漢字の小テストのようなものです。習っていない漢字も出します。編と偏が「へん」と読むことから篇も「へん」と読むのではないかと推測して答えます。

そのようにして学習したことを踏まえて、学習していないことも少し推測できるようにAIを育てていきます。

ここでは、AIも地道にお勉強しているんだなあと思ってもらえれば良いです。

 

IBM AIディベーター(Project Debater)

ここからは、IBMが何をAIに教えてきたかを一つずつ見ていきます。

(なお、このAIは即興型の試合用に作られたものですが、ある程度ディベート甲子園に引きつけて考えられるように説明していきます。)

 

1、たくさん知識を収集する

 

上記のIBMの記事の中では次のようにありました。

  • Project Debaterの知識ベースは、新聞と雑誌から収集された約100億の文から構成されています。

たくさん学習しています。すごいですね。100億ってどれくらいなのかもうよくわかりませんが、私が昔ディベーターは1シーズン2000枚論文を読めと聞いたことがあるようなないような気がするので、人間をはるかに超えた学習量です。

 

2、そのテキストの意図は何か

集めたテキストはそのままでは使えません。

肯定側で使えばいいのか、否定側で使えばいいのか。どこで使えばいいのか。

  • ライブ・ディベートでは、Project Debaterは、論題を説明する非常に短い文を与えられ、前もって学習したことのないトピックについて議論します。最初のステップでは、論題に賛成または反対する立論を作成します。Project Debaterは、この目的のために役立つ可能性があるテキストの断片を大規模なコーパスから検索します。これには人間の言語とその繊細なニュアンスを深く理解し、賛成と反対の立場を非常に正確に特定することが必要です。これは、人間にとってすらも必ずしも簡単ではなく、コンピューターにとっては非常に困難な処理です。

証拠資料を見つけてタイトルを付けていない場合、この困難さを放棄している可能性があります。一つの意味に決まらないから書けないということもあるかもしれませんが、 漫然と集めると結局取捨選択できなくてあとで困ってしまうことにもなりかねません。これはとても大変で、重要な作業です。

 

3、断片的な意見から立論を構成する

ここでは具体的に膨大な資料から立論に絞り込んでいくプロセスが端的に書かれています。

  • このプロセスによって、数百の関連するテキスト断片を生成することができます。効果的にディベートを進めるために、このシステムは、その意見をサポートする最も強力で多様な論拠を構築する必要があります。Project Debaterは、重複する論拠のテキストを排除し、残りから特に強力な主張と論拠を選択し、テーマごとにこれらを配置し、論題に賛成または反対するための論述のベースを作成することによって、これを実現します。
  1. 重複の削除
  2. 強い論拠の選択
  3. 配置
  4. 論述のベースを作る

ディベートでは普通、ここの言葉で言えば論述のベースから遡って資料を見つけるように教わります。それは、結局資料を集めても「3.配置」や「4.論述」で詰まってしまうからかもしれません。重複するほど資料を集めるのが大変というのもあるかもしれません。

やりたい議論を求めて存在しない資料を探して迷宮入りしてしまうチームがあります。まず今ある資料の中で強い論拠を選択して作ってみてください。

他校と似た議論なのに勝てないチームもあります。配置、論述を見直してみてください。

 

4、人間にとっての難問をサポートする論拠

Impact(重要性、深刻性)あるいはスタンスや判断基準と呼ばれる議論です。

  • また、ディベートの論題が呼び起こす人間にとっての難問(政府が個人の選択の自由を侵害しても国民に行為を強制することが正しいのはどのような場合か、など)をサポートする論拠を見いだすことができるように、ナレッジグラフも使用します。

 上記の括弧の中身はかなりいい例です。立論を立てた時、重要です、深刻です、だけでなく、相手の立論が発生していてもそれよりも自分たちの立論が重要な理由を考えることが必要です。

ナレッジグラフというのはGoogleの知識ベースのことらしいです。要するに適宜ググるって感じですかね。(中身はよく知りません)

 

5、論拠を組み合わせる

これはディベート甲子園で言えば、否定側がよく使う戦法で、いくつか発生過程を用意しておき、相手に合わせて組み合わせたりします。プランによってデメリットが大きく違う場合などですね。

  • Project Debaterは、選択したすべての論拠の断片を組み合わせて約4分間続く説得力のあるスピーチを作成します。このプロセスは数分で完了し、立論を発表する準備が整います。 

さらっと「説得力のあるスピーチ」と言っていますがそれはどうやって学習したんでしょう。すごいですね。

 

6、相手の反応を聞いて反駁する

反駁もします。ここも端的でわかりやすいです。

  • 次のステップでは、相手の反応に耳を傾け、理解し、反駁を構築します。適切な反駁をすることは、人間とマシンの両方にとってディベートの最も困難な部分です。Project Debaterは、相手の論拠を予測・特定する技法を含む多くの技法を適用します。次に、この論拠に対抗する主張と証拠で反駁することを目指します
  1. 相手の主張を聞く
  2. 相手の主張を理解する
  3. その論拠に対抗する主張と論拠で反駁する

反駁の4拍子などは上記3つを経て反駁する内容が決まった後のことです。

それはむしろ形式的な技法であり、本当に難しいのは相手の話を聞き、理解することであるといえます。

そして、とりあえず資料打っとけというのではなく、この論拠に対抗する主張と論拠でなければなりません。

 

おわりに

以上見てきたように、AIディベーターは、AIであるかどうかという以前に非常に質の高いディベーターに教育されているように思います。

AIディベーターについては記事や論文も出ているので興味のある人は調べてみてください。

AIと人間は比べられがちですが、そもそも人間はある点においては機械に負けるということはすでにAI以外でも起きている話です。電卓より早く正確に暗算できませんし、車より速く走れません。重要なのはAIに勝つか負けるかではなく、その背景にあるものとどのように関わりを持って生きていくかだと思います。

 

最初の記事の元になった記事を紹介します。

www.mugendai-web.jp

Project Debaterの目的の一つは、人の意思決定を支援することだといいます。

最初の記事の著者が勘違いしているのは、「AIが」人の意思決定を支援すると思っている点ですが、これはDebaterにかかっている言葉だと思います。

ディベートの技術がAIによって再現可能になり、だれでも利用できるようになれば役に立つということです。

 

 論題を通じてディベートや社会問題に向き合ってみてください。